ちび公

テントから

 世界が白くなって、目を閉じていてもテントの中では、朝が来たのがわかります。ファスナーを開けると、その気配でちび公が顔を見せました。
 いい天気です。顔と川が同じ高さにあって、虫がかげろうのように、朝のハッチをしているのが良く見えます。ここは、道までどんなに頑張っても半日はかかる渓の奥です。すべてのしがらみから解かれて、もう少しまどろみます。昨夜、渓流の水で割ってオールドパーを飲んだカップでコーヒーを飲みます。
 ここまで来た犬は、きっとちび公だけでしょう。人でさえ滅多に訪れません。初めて、ちび公を連れてきたときは、少し時期が早く残っていた雪代に悩まされました。雪代は手を入れてさえ、冷たい!と感じます、入れ続けることなどとても出来ません。深いところはヘソまで、足首から下は常時つかっりぱなしの徒渉で足の感覚は無くなります。始め、喜んでいたちび公ですが、途中から震えだし、尾も下がってしまいました。

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 徒渉の苦手なちび公は、高巻き、へずり、やぶ漕ぎを駆使してついてきます。しかし、それも出来ず、強い流れにどうする事も出来ないでいるときは助けてやります。川の左側を、徒渉しているときに、右手の崖の上から転がってきたものがありました。ちび公です。ちび公が、たか巻きで落ちたのは、この時きりです。帰り、ポイントポイントで、止まって釣る私に付き合ってちび公は、立ったまま寝ていました。ちび公が立ったまま寝ていたのは、この時きりです。

キャンプサイト


 夜、火を起こして、焼肉のカンズメを魚に、ホットウィスキーをやります。よもぎをいぶし、防虫ネットをかぶっています。それでも、暖かいウィスキーが入ったカップでは、ブヨが泳いでいます。ちび公には、蕗の葉を広げたお皿にフードが盛ってあります。でも、普段フードを食べたことがないので、食べようとしません。少しだけ、カンズメの汁をかけてやります。心暖かいU人さんです。冷たい流れは、寝るとき、からだがほてります。私はテントの中で、シェラフと格闘しています。ちび公は、近くのやぶの中で丸くなって、じっと夜露を凌いでいました。

野性のニジマス