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1997年世界大会

1997AWC
1997AWC

片付けをしてたら、こんな写真が出てきました。1997年デンマークで行われた世界大会。私はブルとチップで参戦。犬と一緒に宿泊。
日本は1996年から国として世界大会に参戦しています。その2年目の大会。私にとっては初めてのヨーロッパ。これ以降、20年間、毎年のようにヨーロッパに行くことになるとは、この時は考えもしませんでした。

1997年世界大会

水曜日 夕方、我々は冷たい雨の降るコペンハーゲンの空港におり立った。手配してあるはずの車が無く、すったもんだのあげくようやくの思いでホテルに着いたのは、それから2時間以上も後の事だった。日本より日の暮れるのが遅く、それでも僅かに明るさの残る黄昏の中、犬を排便に出すことが出来た。風が強く、断続的に雨が降る。

木曜日 デンマーク1日目の朝、非常に強い風が、低く広く拡がった空間を吹き荒れる。その中を散歩がてら競技会場に行ってみる。会場のブロンディスタジアムは、ホテルの向かい側、といってもサッカーコートを何面も有するほど広大で、その一施設に過ぎないホールまでは歩いて10分程かかる。ホールの入り口に貼ってあるアジリティー競技の赤いポスターが印象的だ。終了時に一枚失敬するつもりでいたが、あわただしさの中で忘れてしまった。散歩を終えて帰る。ホテルの横のサッカーコートの脇に主催者側の配慮で一組のアジリティーのセットが置かれている。風が強くハードルはすぐ倒れてしまう。タッチ障害の基礎トレーニングとスラロームの練習だけをしておく。

 朝食後、人影に気がついて行ってみるとアメリカチームがトレーニングをしていた。日本にはお馴染みのシモンズモークの姿を見かけて声をかける。トレーニングは良く統一されていて、風で倒れかかるハードルを交代で押さえながら、コーチの指示のもとてきぱきと効率よく行われていた。トレーニングはスピードよりもコントロールを重視したもので、トンネルの入り口をAランプのすぐ横に並べて、どちらに行かすかをハンドリングによってコントロールしたり、コマンドにより反対側からシーソーやスラロームに入れたり、しつこいほどのタッチ障害の練習など、総じて丁重で念入りなトレーニングであった。エサの多用も印象的だった。アメリカチームの後、日本チームがトレーニングを行う。長旅の疲れを考慮し、はやる心を抑えて軽く流す程度の練習にとどめる。

午後、JKCのはからいで市内観光。夕方、会場でニールセン氏と落ち合う。日本から到着したばかりの木村、新田のアジリティー委員とマスターフーズの島津さんも同行する。会場のフィールドは30m×60m程の広さで、その回りを観客席が取り囲む。昨年の会場は下に土が敷かれていたが、今年は絨毯が敷かれることになっている。その絨毯が脇に用意されていて、滑ることから絨毯はとかく問題にされがちなので興味を持って調べた。裏にスポンジのようなクッションが薄く貼ってあり、犬はともかく人は全く滑らなかった。明日はその絨毯に慣らすため、競技会場で国別のトレーニングが予定されている。

金曜日 そのトレーニングを私は最初から最後まで見ていた。使用できる障害はスラローム一組とハードル6~7個だけで、すでに会場に用意されている。それぞれの国で、それを好きなように配置して練習していた。絨毯に慣れさせるという名目で設けられた特別トレーニングであり、日本チームもそこにウェイトをおいたが、他のほとんどの国は全くそれにとらわれず、いつも通りのハンドリング主体の練習をしていた。また、コーチの統制が非常に良くとれていてハンドリングスタイルが統一されており、30分という枠の中でコーチの指示のもとスピーディーで効率的なトレーニングをしていたのも印象的であった。まさに、アジリティーにとって何が重要なのかを充分知り抜いているという感じがした。この国別トレーニングでは、クロアチアやイタリアのスピードが目を引いた。しかし、実際の競技では彼らの成績はふるわず、コントロール主体の練習をしていたスイスやデンマークなどが高成績をあげることになる。

土曜日 競技初日。オープニングセレモニーの喧噪がまださめやらぬ会場で、競技は始まった。競技は個人のアジリティーから始まり団体ジャンピング、明日の団体アジリティー、個人ジャンピングと続く。各競技ともスタンダードの後、ミニクラスが行われる。個人アジリティーはデンマークの審査員が担当し、比較的オーソドックスなレイアウトのコースだった。極端に難しい個所はなく、失格の出にくいコースのようであったが、日本のスタンダード参加者5名の内、3名までが失格となる。しかも全て同じ個所での失敗で、この失敗が後々尾を引くことになる。このクラスの圧巻は何といっても、昨年のジャッジのマルコ・モーエンだろう。どんなハンドリングをするか世界中が注目する中、抜群のスピードと極めて安定したハンドリングでベストタイムをマークした。まさに見事であった。

団体ジャンピングは、日本は16番目のスタートで午後になった。団体は1チームが4名で構成され、上位3名の成績が考慮される。昨年の成績を分析すると、タイムよりも減点を減らすこと、特に失格を無くすことがポイントになるようだ。日本チームの結果は、柳生ブルがタイム狙いで途中失格も、後の3名が完走してチームとして一桁台のペナルティーを確保し、初日は22チーム中16位となる。ジャッジは個人アジリティーと同じくデンマークのジャッジであった。若干変則的な個所があるものの、各障害に非常に微妙な角度が持たせてあって、遠隔でのハンドリングがやりにくい設計となっていた。

日曜日 今日で終わりである。今までの全てのトレーニング、準備、期待、応援が今日の結果如何にかかってくる。スペインのジャッジが担当する団体アジリティーから競技は始まった。スピードと危険性が隣接したコースで、一瞬のコンタクトの断絶がコースミスを呼びそうだ。タイムを狙う危険性は極めて大きく、全員がノーミスを目標とする。結果、無難に終了して、初日の16位から14位に順位を上げる。個人ジャンピングは、大変スリリングなコースが設計されていた。一瞬のハンドリングミスはコースミスに直結し即失格である。最後まで気を抜くことは許されない。結果、日本勢は5走して2名失格。これですべて終了した。

月曜日 10時から研修会が行われた。デンマークナショナルチームのアネッテという女性がコーチである。コースを走らせてハンドリングの問題点を指摘し、的確に矯正方法をアドバイスしていた。だいたいは分かるのだが、微妙な部分になると言葉の違いから理解するのが難し事もあった。しかし、各々のハンドラーにとってそれなりの収穫はあったはずである。ランチを一緒してもらい更に詳しく話を聞いた。2時間の予定を大幅に過ぎた3時に別れた。

成績 今回の日本チームの成績はどう評価すべきであろうか。普通、実力以上の成績なら良くやったと言われるだろうし、実力を出せなかったらもう一つと言われるだろう。そういう言い方をするなら、今年はもう一つだったと私は言いたい。そう言い切れるほど日本チームの実力はついてきていると私は確信している。

エリック・ニールセン氏 競技の準備や片づけ、数々の手配、審査員との打ち合わせ、VIPの接待、主催の中心的存在としてニールセン氏は大変だったろう。そんな中、ニールセン氏は毎朝夕、その手段を持たない日本チームのために、会場ホテル間の犬オリの輸送をしていただいた。誠に頭が下がる。

犬の輸送費 キロ当たり5、600円。今回の、デンマークまでの片道の犬の運賃である。但しこれは、手荷物扱いの場合で、これが貨物扱いならキロ当たり2,300円ですむ。今回、北海道は総勢4頭で150キロ、手荷物なら往復150万円以上がかかることになる。貨物なら50万円弱ですんだはずである。これに更に成田札幌の往復運賃が加わる。補助は受けても今回のように手荷物で扱われてしまうと大きな負担の持ち出しとなる、ご一考いただきたい。

最後に 素晴らしい犬、各国のトレーニング、ハンドリングスタイル、そして国は違っても心を同じくする人との出会い、、、得たものは大きく限りがない。昨年に引き続き今回の派遣も、日本のアジリティーにとって非常に大きなプラスをもたらすだろう。この派遣を企画し実行したJKCに、深く感謝する。そして、トラブルに見舞われながらも犬人ともベストコンディションで競技に臨むことが出来たのは、ひとえに同行された木村、新田のアジリティー委員、穏やかな人柄の菅原氏、そしてアマチュアながらミニクラスに参加された東ご夫婦と織田さん、応援の大阪山口夫人、そしてチームのキャプテンとして的確な指示を出し続けた京都の月城アジリティー委員長、この皆様方の暖かく惜しみ無い手助けによるものである。心から感謝する。そして、トラブルの処理や様々な手配に奔走した淡島、川村のJKCの両担当者にも深く感謝する。 

第1回セラピードッグ認定試験

セラピー認定試験について

このところ、少しずつ知られるようになったものにセラピー犬があります。犬との接触が、人の血圧を安定させるなどの病理的効果や、精神的なケアには時として顕著な効果を上げることが知られてきており、施設などの慰問を通じて、痴呆症の予防や治療に効果を上げております。セラピー犬にはこの様な効果がありますが、このように書くとあたかもセラピー犬が老人と接触させるだけで魔法のように老人を治すように受け取られるかもしれませんが、決してそうではありません。そのような効果もないわけではありませんが、そのセラピードッグを連れて老人と対応する、その犬のハンドラーの働きが重要です。「おばあちゃん元気?」「変わり無かった?」ハンドラーは、犬を代弁するように老人との対話を作ります。この対話での心のふれ合いが、とかく、閉鎖的になりがちな老人の社会性を向上させたり、社会とのつながりを保ちます。じゃ、ハンドラーだけでよいのではないかと思いますが、人には、なかなか心を開きません。ここにセラピードッグの存在意義があります。そして、慰問を心から喜ぶ、老人の笑顔や、慰問に涙する姿は、そのセラピー犬のハンドラーの大きな心の支えとなります。

このセラピー犬の認定試験を北海道ではじめて行いました。(あるいは、日本ではじめてかも知れません。)会員以外には案内を出してないにもかかわらず、40頭もの参加申込を得ました。昨年行った救助犬の認定試験が、訓練士にハッパをかけて20頭弱だったのと較べますと、予想外の数で、セラピードッグに対する関心の高さをうかがわせます。同時に一般愛犬家が求めているものが、今どこにあるのかも考えさせられました。参加者の顔ぶれは極めて新鮮です。ドッグショーや訓練競技、あるいはアジリティーなどのドッグスポーツでいつも目にする顔ぶれとは全く違います。別の層です。この層にかなりの数の愛犬が埋もれていることでしょう。愛犬団体もこれらの人々の救済にそろそろ本腰を入れる時期が来たのではないでしょうか。

さて、試験の様相です。「セラピー犬にとって最も重要なことは何か?」この試験のテーマでした。それは、いかなる場合であっても、肉体的あるいは精神的なダメージを対象とする人々に一切与えないということです。せっかく心を開いて接触に応じた人に対して、犬が敵対的な態度をとっては致命的な障害を与えかねません。テストは「A犬体検査」「B対人性のテスト」「Cマナーテスト」の三つにわけて行いましたが、すべてのテストの過程を通して「咬む、うなる、吠え出す」事があった場合は、即時中止としました。

「A犬体検査」は、人間に対する衛生的な影響を中心にテストしました。1「清潔」良く手入れされているか。排泄物などの付着はないか。2「臭気」体臭、口臭、耳。3「手入れ」抜け毛の有無。4「外部寄生虫」ノミ、シラミ、皮膚病。5「内部寄生虫」検便サンプリングです。詳細は省きますが、顕著な問題を持った犬はいませんでした。この検査では、その過程で犬の体に対する執拗な接触を伴いますので、次の「B対人性のテスト」の一部はこの検査を持って省略しました。

「B対人性のテスト」は、実際に起きるであろう事態をシュミレーションして、犬の反応を検査しました。但し検査は、犬に悪影響を残すおそれのない範囲にとどめられます。1「全身に対するスキンシップ」見知らぬ人が犬の体を触る。耳を軽くつかむ。口の中に指を入れる。尾および足を軽く踏む。(A犬体検査時に行った。)2「強い、又は不器用な撫で方に対する反応」犬の体を揺する。犬の背を強く撫でる。3「束縛に対する反応」犬を抱きしめる。あるいは抱え込む。4「車椅子の接近」声を出したり、モーションを使って、充分に意識づけながら車椅子で犬に接近する。車椅子には老人を模した人が乗る。(Cマナーテスト時に行った。)5「威嚇的な叫びに対する反応」ある程度離れた距離で、威嚇的なモーションを伴って大きな声を出す。6「背面からのぶつかりに対する反応」犬に分からないように背面から接近し、軽くぶつかる。7「多人数から撫でられたときの反応」3人以上で友好的に犬を撫でる。8「飼い主からの別離」ハンドラーの見えない位置まで見知らぬ人が犬を連れていく。もしくは見知らぬ人にリードを預けて、ハンドラーが犬の視界から消える。(Cマナーテスト時に行った。)「A犬体検査」「B対人性のテスト」を通じて中止となった犬は1頭でした。

「Cマナーテスト」(テストは紐付き)は、犬の持つ潜在的な攻撃性についての評価を得ることを中心として行いました。上記の二つのテストで問題無しとされた犬が、このテストで2頭、不適格と判定されましたので、それはある程度は効果があったと思われます。が、同時に評価しきれない犬も2頭出ました。その2頭は再検査としましたが、検査方法についてはさらに考慮の余地があるようです。

犬の持つ潜在的な攻撃性をどう評価するか、それは潜在的な攻撃性をどう引き出すかということです。これについては先ず、本質検査というテストを行いました。この検査を行うには、犬に対する充分な理解が要求されます。恐らく熟練した犬の訓練士しか出来ないでしょう。例えば、ある程度攻撃性のある犬でも、人混みの中に入れられたり、不慣れな環境では、人に対する意識が、散漫になるためか攻撃性は発現しません。本質検査では、一つの閉ざされた区域の中にハンドラーと犬を隔離して一定時間置き、ハンドラーと犬が一つの空間を占拠するという状況を設定しました。

そこにハンドラーと犬しかいないということを犬が意識された頃、その空間に試験官が侵入します。試験官は、犬の意識を充分に自分に集めてから「恐る恐る」という態度で、接近や停止、後ずさりを充分な間を持って繰り返します。ただし、一定の距離以上には犬に近づきません。犬の警戒心を刺激して防衛訓練をはじめる、初期の段階のような動きです。警戒心の強い犬なら、恐らく吠えるでしょう。また、警戒心の少ない犬も、「怪訝」な気持ちを抱くことでしょう。その「怪訝」な気持ちが生じたところで試験官は、犬を触れるところまで接近します。この瞬間に、犬の本質は極めて顕著に現れます。試験官を抵抗無く受け入れる犬。喜ぶ犬。後ずさりする犬。不安そうに嗅ぐ犬。うなり、ハンドラーの後ろに隠れる犬。無関心の犬。端的に言って三つに別れたようです。「逃げる(避ける)」「無視(無関心)」「友好的」です。

次に行った「車椅子での接近」も同じ手法を用いました。ただし、車椅子の場合に問題とされるのは、対人性ではなく車椅子という「物体」に対する反応です。車椅子の接近では、最終段階では車椅子上の人間は犬に声をかけるようにして、刺激をやわらげます。人よりも車椅子の方に不安を示す犬が、2、3いました。

本質検査では、「人類」に対する犬の裸の気持ちが出たように思います。いわゆる「根(ね)」です。これは、マナーテストの最後に行われた「別離のテスト」でも現れました。主人がいなくなり不安を示すもの、そばにいる試験官に依存しようとする犬。すべてが眼中から無くなり鳴き出す犬。静かに待つ犬。主人の不在を気にしつつも試験官の接触に対応できる犬、、、

今回時間の都合で、若干しかテストできませんでしたが、オーナーの車の中とか馴れたゲージの中、すなわちテリトリー内における犬の態度はもう少しみたい気がしました。3つのテストで問題の無かった犬1頭を、ゲージの中であまりに攻撃的なため不適格としました

 セラピー犬にとって「咬む、唸る、吠え出す」事は絶対あってはいけないことです。そしてそれらは、充分なしつけや訓練によって得られるかも知れません。しかし、もう一歩進んで、「人」そのものに対する友好性、見知らぬ人であっても喜ぶ気持ち、となると犬の本質的なもののような気がします。「咬む、唸る、吠え出す」事はあってはなりませんが、それだけで本当にセラピー犬としてふさわしいと言えるか。更に誰に対してもフレンドリーな気持ちを持てること、これが大切ではないかという気が、今回のテストを通じて私はしました。施設の慰問に際しては、犬に相当のストレスがかかりますが、その点からも根っから人に対してフレンドリーな犬の方がセラピー犬には向くような気がしました。

「Cマナーテスト」の内容。1「歩行」ハンドラーと一緒に、人のいる屋内を静かに歩く。2「服従」スワレ、フセ、および3分間の休止(ハンドラーは犬の見えないところに行く)。3「犬に対する態度」他の犬に対する態度。4「品性検査」警戒心と判断力の検査。