
1996年本部アジリティー








北海道ボランティアドッグの会 設立総会議事録
とき 平成八年9月23日(月)秋分の日 午前10時から午後0時
ところ 「光と風の里」(恵庭市)体育館
出席者 柳生 昌男、松本 義一、植田 文子、広内 正彦、新倉 弥生、吉住 憲広、三田 哲也、清水 磨理、小山 信雄、椋野 輝之、本多 弘幸、浅岡 賢一、大沼 由二、田中 哲夫、山口 史雄、後藤 丈嗣、北 孝、長谷川 智子、大沢 久枝、米田 英二、前山 鉄幸、嘉瀬 雄平、岩間 信吉、笛田 玲子、寺田 時雄、中川 洋治、兼古 悟、村上 広美、中村 紀子 以上29名。
委任状参加者 林 昌子、藤田 恵子、湊 毅、佐藤 芳子、田中 路子、後藤 篤雄、米田 英二、田村 大助、古田 かおり、加藤 辰也、秋本 勝美、高田 雄二、松本 克生、庄司 幸一、大久保 紀美子、玉木 祥夫、五十嵐 作雄、小野寺 里絵、鈴木 ゆり、佐々木 政太郎、池戸 一、野沢 利秋 以上22名。
オブザーバー 山田 三郎(救助犬審査員)
設立総会時会員数62名 出席者29名、委任状出席者22名合計51名 総会成立。
総会経緯
1・開会宣言 発起人代表 柳生 昌男が開会を宣言する。
2・議長選出 指名により柳生 昌男が議長となる。
3・議事録署名人選出 議長一任により植田 文子、広内 正彦を選出する。
4・議案についての審議
定款の承認 第6条 「本会の入会に際しては、理事の推薦もしくは理事会の承認を必要とする。」が「本会の入会に際しては、理事会の承認を必要とする。」に修正される。第10条「正会員は、その名称、住所などに変更があった場合は、速やかに本会にその旨を届けなければならない。」が、「正会員は、その氏名、住所などに変更があった場合は、速やかに本会にその旨を届けなければならない。」に修正される。その他の項目については草案通りに承認される。
役員選出 推薦により、以下の者が役員に選出され、承認される。
理事 柳生 昌男、松本 義一、広内 正彦、新倉 弥生、秋本 勝美、高田 雄二、兼古 悟、天内 満雄、小山 信雄、大沼 由二、牧 十郎、
前山 鉄幸、椋野 輝之 以上13名
監事 本多 弘幸、大沢 久枝、北 孝 以上3名
会計 植田 文子
編集局 三田 哲也
事務局 柳生 昌男
事業計画 予算案
1 セラピードッグ登録・・・至急登録を実施する。その詳細はサラピードッグ委員会に一任される。
2 救助犬認定試験の開催・・・日時11月3日4日開催にむけて準備する。詳細は救助犬委員会に一任。
3 会報の発行・・・承認される。
4 会員、ハンドラーの保険・・・承認される。
会の案内誌の作成・・・早急に作成のこと承認される。
捨て犬の保護をする活動をしてはどうかという提案がされる。活動範囲が広くなり過ぎると言うことで見送り。
予算案が草案通りに承認される。
5 オブザーバー挨拶 山田 三郎氏から救助犬認定試験の実施要領及び必要な訓練が紹介される。 設立総会閉会
1
午前7時。すさまじい音をあげて風が吹き上げてくる。尾根の右側の斜面は、もろく崩れそうな縁から垂直に近い勾配で、涌きあがってくるガスの中に消えていて、吸い込まれそうだ。もちろん、吸い込まれたら永遠の別れである。バーバは無造作にその縁に立ち、私は強風に煽られながら、ロープを頼りに、もう一息の頂上を目指していた。
前日午後8時。雌阿寒岳に登った人の遭難をニュースで知る。ガイドブックから、雌阿寒岳周辺の地形を調べる。足寄消防署、現場の本別警察署の係官、本別警察署等に、遭難時のようすと、捜索の状況を問い合わせる。明朝午前6時捜索開始ということで、今から現地に行けばその前に犬を投入できる。明日は救助犬訓練の取材がテレビ局から入っていたが、それは他の人に任せよう。友人で山歩きの達者なマスターから同行のOKをとり、現地の担当者から救助犬のボランティアでの捜索参加の了解を受ける。出発は午後9時、犬はバーバとマスターの黒ラブ、ロック。
午前5時半。着いたのは2時だった。車の中で仮眠をして、関係者の起きてくるのを待った。昨夜電話で状況を教えてくれた、本別警察の担当者が一番に起きてきた。遭難の状況と捜索の状況を詳しく聞く。
行方不明になっているのは、遠軽に住む61才の男性O氏。O氏は一昨日(3日)10時半、愛犬「太郎」(10才のアイヌ犬)を伴って単独で雌阿寒岳を目指す。相前後して、同年輩のご夫婦がやはり雌阿寒岳に登っている。当日は朝から雨で、この夫婦は旅館の主人が引き留めるのを振り切って、登って雨に濡れて這々の体で帰ってきたという。この夫婦が2合目あたりでO氏を確認している。更に別の人が13時30分頃、7合目あたりを上に向かって歩いていたO氏とすれ違っている。O氏を確認したのはこれが最後である。
登山簿の下山時間午後4時という記載から、当初関係者はその時間に下山したものと考えて捜索をしなかった。しかし、それは実際の下山時間ではなく予定時間ではないかという事になり、家族の要請もあって捜索が始まったらしい。4日、登山道の周辺を中心に捜索され、更に午後からヘリによって雌阿寒岳頂上一帯が捜索された。それをふまえ担当係官は、本人の性格、行動力から考えて登山道周辺がもっとも可能性が高いと話してくれた。それに従って我々も登山道周辺を中心に捜すことにする。午前5時半出発。
雌阿寒岳は子供でも登れる安全な山として知られている。この山での遭難騒ぎは今まで起こっていない。登山道入り口から原生林が続き、2合目ぐらいからハイ松が混ざり始める。3合目からはハイ松だけになり、7合目あたりまでハイ松帯は続く。そこから上はガレ場である。野中温泉からの登山道はそのまま外輪山を回り途中、阿寒湖畔への登山道、阿寒富士へのルート二つの分岐を過ぎて、オンネトーへ降りていく。野中温泉から登ってオンネトーへ降りるか、その逆が一般的なルートのようだ。
2
午前7時半。犬の反応がない。7合目あたりには巨石が点在し、その下にビバークという事も考えられたが、この様子からするとその線は無さそうである。8合目から上は巨石もなくなり、ヘリがくまなく捜しているのでそこから先は捜すことも無さそうだ。頂上目前で我々は引き返す。
時折雲の切れ間から、国道に沿ってラワンの部落が見える。その国道からオンネトーに入る舗装道路が、偶然一直線に見えている。ハイ松帯が緑の絨毯のように広がり、それを削るように沢が走り、その沢から樹林帯が始まって深く広く見渡す限りそれは続いている。あの樹林帯の中に入り込んでいたら、捜すのは非常に困難である。あるいはハイ松の下に風雨を避けて潜り込んだのか、思いを巡らしながら下る。
午前8時。6合目まで降りたところで捜索隊とすれ違う。山装備の一見して山屋とわかる男性。この人、田村さんと言って帯広山岳会の人。足の運びが軽い。我々は午後から彼と行動を共にすることになるが、彼はこのあと7合目で強い風に登頂を断念して引き返してきている。
午前8時半。登山道を横切るようにガレの沢が一本ある。登るより下る方が楽である。遭難者はしばしば目先の楽を取る。捜索の警察官が2名先行しているが、この先今来た登山道を引き返しても捜索隊のニオイで犬は使えないので我々もこのガレを下ることにする。
沢といっても水はない。大雨や雪代の時だけ水が走るのであろう、石が削られてきれいな丸みを帯びている。途中、水の無いナメ滝や、水の無い釜がある、いずれも落差があり、落ちたら怪我をする。心配したが、ロックもバーバもドジは踏まなかった。
我々は無線を使っている。捜索の指揮本部とはあらかじめ周波数を決めて、連絡を取り合っている。更にロックの首には無線発信器をつけてある。猟犬用のピー音とマイクのついたものである。私のお尻の受信機から、ロックの呼吸音と足音がピー音に混じり常時聞こえてくる。ロックに向かって話せば、私はそれを聞くことが出来る。こちらからは連絡が出来ない。
3
午前9時。沢の所々にある砂地で足跡を捜す。誰かが歩いている。犬らしい足跡も一つ見る。しかし、続いていない。そのうち、先行している警察官に追いついた。追い越す。
午前10時。沢に水が出てきた。かなりの落差の滝が3個所あった。いずれも高巻きをしてかわす。3個所目を高巻いたところで、作業道に出る。足跡は確実にあるが、どうやらこれはキノコ採りのようである。やがて作業道は林道に出て、更にその林道は国道からの取り付け道路に通じていた。これで1回戦を終える。
風が強い。雌阿寒岳の山頂を巻き込むように、ガスが猛烈な速さで動いている。阿寒側からの捜索隊は悪天候で捜索を断念した。私たちは雨に見舞われなかったが、幸運だったのだろう。そもそも、ここへ来る道中はずっと雨で、雨での作業は覚悟していた。
午後0時。作戦会議。これからどこを捜索すべきか、皆で打ち合わせる。意見が分かれる。あらゆる可能性を考えて捜索範囲を広げるか、範囲を絞ってローラーをかけるか、二つに別れる。いずれにしろ、一つだけ確かだと思われたことがある。それはO氏は健全な状態にはないことである。健全なら自力で降りてこれるし、捜索隊に反応できる。
O氏は犬を連れて歩いている。しかもどうやら、紐につないだまま歩いているようである。犬は10才のアイヌ犬、すれ違った時犬を抱いていたという話もあり、犬の体力はないようだ。O氏の行動力は、あまり無いと私は考た。私は、樹林帯かハイ松の中に居ると考え、そこのローラーを指示する。
山屋の田村さんは、山頂から続くルート外の沢を指示した。彼はこの山の地形に非常に詳しい。ハイ松帯が遮っているので、山頂から続いている沢以外には、人が入り込むことは不可能だという。捜すべきは山頂から続いている沢に限られる。
いずれにしろ、どちらも確認はしなくてはならない。ローラーをかける隊と、沢を確認するたいとに別れる。私たちは田村さんと、はずれにある沢を下から攻めてみることにする。
4
午後0時過ぎ。沢の水を飲もうとするバーバを叱る。沢は硫黄臭く、水の底の土は変色している。沢は土石流が流れて荒れている。30分も詰めるとすぐ滝が現れた。80メートルほどの落差がある。両側はハイ松の生え際からすぐガンケである。左に1個所ハイ松が下まで続いていて、それを伝って高巻き出来そうなところがある。そこから滝の上まで行けるだろうが、行ったところで移動は無理だろう。「オーーーーイ」「タローー」今日なんど叫んだ事だろう、ひとしきり叫んで引き返す。
例え見つからなくても、可能性を一つづつ潰していくことは大切である。居ないことを確認するだけでも意義はある。指揮本部に帰り、次にどこを潰すか検討する。
午後2時。別部隊は150人規模でローラーをかけている。まだ手がかりはない。6合目にキノコ採りが使う踏み分けがあると田村さんが指摘する。どうやら同行してくれと言うことらしい。やるならすぐ出発しなくてはならない。もう午後2時、山から引き返す時間を考えると限度である。ローラーの方で何か出たら無線で連絡してもらうことにして、又登る。
犬はとっくに限度を超えている。警察と一緒に作業していた釧路の桑田さんの警察犬は、昼前に作業を終えていたが、その時点ですでに足が腫れていた。バーバもロックも体は無傷だが、疲労の色が濃い。
午後3時。6合目のキノコ採りの踏み分けとの分岐に、足にマメが出来たマスターを残す。踏み分けの道は所々しかなく、ほとんどハイ松の上を歩く。心配したがバーバはちゃんと付いてくる。雨は上がり、風が強く冷たい。小さく沢をいくつか越すが、その沢には必ず足跡がある。キノコ採りの連中である。驚くべき執念を感じる。
午後3時半。目的の沢を囲む尾根に出る。ハイ松の上から見渡すと遥か下に、ガレの沢が見える。この落差を降りて、又上がってくるのは気が重い。沢を下っていくと、やがては今朝我々が下った沢に合流する。順調にいけば暗くなる前に、道に出れるかも知れない。田村さんは下ろうと言う。バーバが居るので、田村さんほどの機動力は私には無い。心配なのはガンケである。犬連れの私が、山屋と同等にガンケに対応できるわけがない。今までこのルートを通ったことがあるかと聞くと無いというので、私は下ることに同意しなかった。
6合目でマスターと落ち合い、腰を下ろす。通り道にあたるのか、すぐ横を猛烈な風が走っている。その風に体を預け、ジュースを飲みながら、遭難者の行方について各自思いを語る。バーバは田村さんに水をもらって喜んでいる。ロックは何が気に入ったのか、斜面に突き出た岩の上まで行って、こちらを見る。発信器の付いた首輪を付けて、それはなかなか様になっていて、写真でも撮りたいところだ。ひとしきり休んで、山を下る。
5
山を下りて、指揮本部に一応の報告をして家に帰った。
6日午後7時。野中温泉に電話して、警察の担当者に様子を聞く。自衛隊が100人ほど応援に来て、登山道周辺から下に向かって、ローラーしつくしたそうである。再度ヘリも出た。
田村さんが、登山道からかなり離れたところで、O氏と犬の足跡を見つけたそうである。足跡は、相当歩き回っているようだ。明日はそこを中心にヘリを使って捜すそうである。夕方になってにわかに冷え込んできた、部屋にいても寒い。
7日午後5時。発見の連絡が入る。発見場所は剣が峰。ヘリが捜した地域で、我々は頭から捜索区域から除外していた。検視の結果、死因は凍死。死亡推定時刻は4日午前。犬は健在で、紐につながれて、O氏はその紐を握ったまま倒れていた。
発見された場所は、私をはじめ、ほとんどの人の予想と違っていた。田村さんは、雌阿寒から派生するすべての沢筋を確認しようとした。その過程の中で、O氏が沢を降りかけて、ハイ松に阻まれて引き返した足跡までが確認された。更に足跡は、かなりさまよっていたという。
人は、自分の判断に疑問を持ったときパニックに陥る。そうなれば、その行動は人の予想の範囲外である。剣が峰に向かったO氏の行動は、それ以外には説明が付かない。大石の下に頭を隠すように、倒れていたという。O氏はさまよい、疲労こんばいして、休み、眠ったのだろう。濡れたままの体でそれは、死を意味する。
総括
捜索は、また徒労に終わった。犬が捜せなかったのではなく、そもそも発見の可能性のある場所に犬を投入できなかったのだ。どこで間違えたのだろう、そしてどう取り組めば良いのだろう。
1・情報収集= 最終確認 および 不在の確認
O氏と相前後して登った夫婦が、O氏を確認している。時間的にいって夫婦は、登りでO氏を確認したようだ。ところが夫婦は、同じ経路を引き返したのに下るときにはO氏を見ていない、これによって夫婦が下った時間帯にO氏は、夫婦が下ったルートには居ないことになる、はずなのだがこれは確認されていない。
また、当日、毎日新聞の人々が登山道を歩いている。それらの人々はO氏を見かけていないのだが、だとすれば、それらの人々のルートと時間を調べることによって不在の確認が出来たはずである。
その時刻、そこにいなかった事が明らかになれば、確認されている場所と時間とに照らし合わせて、ある程度は動きを予測できる。山すべてを探し回ることは不可能である。犬を投入すべき地点の選定、これが大切である。
我々が失敗した一方で、山屋の田村氏は執念で足跡を発見している。否、執念ばかりでなく、長年の経験が指示する物があったに違いない。我々には、それが欠けている。
ヘリが捜した地域は、頭から除外したがそれで良かったのだろうか。他人が捜した捜さないにかかわらず、経路の確認と予測をすべきでだったのではないか。その上で、遭難者の体力と精神状態を考慮に入れて、犬の投入地点を決めるべきではなかったか。
考慮すべき事は多い。
U人
1
遥か上の方で誰かが呼んでいる。私は答えない。その呼び声がだんだん近づいてきて、私は目覚めた。夜中の(私にとって)12時半。誰だ?こんな夜中に。電話のベルをそのままにして、誰か考える。どうせ酔っぱらった友人の誰かだろう。電話に、知らんふりを決め込み又眠る。そのうち、電話は鳴り止んだ。もう一度鳴ったとき、電話をとる。
兼古先生の奥さんから、子供の同級生が空沼で遭難して、明日朝5時から父兄で捜索を開始するので協力して欲しいとのこと。そういえば、昨夜のニュースでやっていた。登山学習に出かけた生徒の一人が行方不明。その生徒一人が風邪気味で遅れがちだったらしい。 確か夜まで捜索していたはずだが、まだ見つからないのか。奥さんの話では、消防や警察は3時半から捜索を開始するという、犬はその前に入れるべきなので、2時半には現場に到着しなければならない。この時期3時には薄明るくなる、活動は出来る。その為には1時半には起きなくては、、、。5万図を捜すが丁度「石山」だけ欠けている。肝心の時に。山のガイド本で現場の状況を把握し、装備を考える。現場は札幌近郊の低山、軽い装備で大丈夫なはずである。動き易さを優先して、最低限の装備しか用意しないことにする。目覚ましをセットして眠る。
現場に着いたのは、2時半。学校の大型バスが入り口に止まっている。警察はまだきておらず、消防の人たちが多い。報道関係者はいない。指揮本部に顔を出す。先生らしき人たちが、指揮本部の横にテントを張っている。恐らく不眠だったろう。消防の責任者と話をし、道案内にこのあたりの地理に詳しい営林署の人を1名、それに連絡係として無線を持った消防の若い人1名を付けてもらう。3時15分、捜索隊に先行して犬を入れる。犬はバーバ。
行方不明の生徒は山口君。昨日の昼食後の1時頃が山口君の姿を確認した最後。昼食をとって下山途中、山口君が最後尾にいたらしい。他の生徒の二人組が何かの用事で、「万計沼まで1.3キロ」という標識まで引き返し、その途中で山口君とすれ違っている。その後、二人組の生徒は「万計沼まで1.9キロ」という標識までに生徒の集団に追いついている。二人組の生徒は帰りは山口君に行き会っていない。二人組は山口君は先に行ったと考えたという。山を下りて山口君の不在が確認された。当然山口君は「万計沼まで1.3キロ」地点から「万計沼まで1.9キロ」地点の間で道を間違ったのだろう。夕方まで先生達が捜索し、更に6時からは消防の人たちも加わって捜索する。手がかりは一切無し。
2
3時15分出発。まだ薄暗い。サポートの消防の人が親切で灯してくれる懐中電灯の光が余計である。目は暗闇にすぐ慣れる。強い光は無い方が良い。
バーバを先行させる。残念ながら空気は微動だにしていない、無風である。捜索には空気が動いていた方が都合がよい。登山道は明確である。迷いようがないほどに明確である。 周りの木は札幌近郊にしては珍しく、完全な原生林である。登山道の両側は笹が茂り、犬さえ入り込みづらい。幸いなことに、サポートに付けてもらった二人は遅れがちである。 犬の神経を邪魔されなくて済む。
右側の下の沢に対してバーバの尾が動く。捜索に入ってはじめての反応。5メートルほど下の沢の手前の木の枝に白い手ぬぐいが引っかかっている。この地点が丁度「万計沼まで1.3キロ」と「万計沼まで1.9キロ」の間。この時点で捜索の向きを沢沿いに変えていれば、簡単に山口君を発見できたのだが、、。手ぬぐいを回収して、その地点の上の木の枝に縛っておく。サポートの人たちと相談して、万計沼まで行くことにする。万計沼には4時40分に到着。二つある小屋の一つに、偶然の登山者が泊まっていて、ラジオで事件を知っていたが山口君には行き会っていなかった。引き返す。
バーバの体力がない。これは山歩きに不慣れな犬には仕方のないことだが、鍛錬が足りない。私は歩くのが商売である。犬の散歩や訓練で毎日歩いている。多いときには1日で4万歩歩く。しかも、渓流釣りが趣味なので山歩きや沢歩きは慣れている。重いリュックを背負って泊まりながら源流に入る。前にアップしたように、山歩きに慣れてない犬は、 途中でへたばり、担いでやらなければならなくなる事もある。バーバも今後、救助犬としてどんどん使っていくためには、釣りに一緒に連れ歩いてもう少し鍛える必要がある。
途中、沢に向かって斜め下に丸木が倒れている。バーバは丸木の上を歩いてこともなげに沢に降りる。ここには何もなかったが、丸木を歩くことは普通の犬には難しい。これはアジリティーやハシゴ登りで訓練してあるからだろう。
反応があったのは後2回。いずれも、人糞であった。
途中、道警の救助犬とすれ違う。やはり、人からの干渉を避けて捜索隊から先行してきていた。その後、警察の人や、消防、自衛隊、父兄や先生とおぼしき人とすれ違って帰る。 6時半指揮本部に到着し、一旦訓練所に帰ることにする。バーバはかなりへばっている。
3
疲れ切ったバーバを休ませ、こちらも朝飯を食べて休息する。捜索の様子を見て、まだ見つからないようなら、午後1時又犬を入れる事にする。それまで見つからないようなら、かなり広範囲を捜さなくてはいけないだろう。少しでも手が欲しいので、警察犬のアイちゃんも出すことにし、救助犬の訓練途中のハナとビビにも手伝ってもらうよう電話で頼む。 1時出発で現地で待ち合わすことにする。
現場を再検討する。迷い様のない様な山道。現地で一緒に仕事をした消防や警察の人は、 「トイレに行って迷ったのではないか」との見解だった。実際後になってみるとそのとおりだったようである。しかしこの時点ではそれは分からない。山道と平行して林道が走っている。更に山道の横にくっついたり離れたりして沢が二本流れている。午後からは、4組の犬を投入できる。沢歩きに慣れた私とアイちゃんが太い沢をしたから登る。後は女性ばかりの3組。私はネットも虫よけも持っているが、現場はブヨや薮蚊がひどい。長井さんはバーバと再度山道。新倉さんとハナは林道沿いを、佐々木さんとビビにはもう一つの沢沿いを登ることにする。
HBC(テレビ局)から、救助犬と警察犬に関する取材の申込みを受けていて、それが丁度この日だったので救助を優先させたいと断った。それなら、救助に出動する様子を撮りたいと言ってきて、邪魔しないことを条件に了解する。が、彼らは1時出動だというのに、早くも10時半にやってきた。仕方がないので、出動させないトミーで救助犬の仕事と警察犬の仕事の違いを見せることにする。結局これが出発を遅らせることになってしまう。
現地到着は2時15分。再度の犬投入の打ち合わせに、指揮本部と相談をはじめたところで道警のヘリから山口君発見の連絡が入る。山口君が発見されたのは、私とアイちゃんを投入する予定の沢であった。

手も足も出ない状況で犬を訓練したりはしません。犬には首輪を付け、その首輪に引き綱やヤードを付けます。それらを取り外すのは、人の働きかけに犬が確実に答えてくれるのが実感して持てるようになってからです。綱やヤードは、叱る意味で用いる場合はショックを犬に与えるように強く短く引きます。強制の意味で用いる場合はゆっくりと、そして始めは弱く次第に強さが増すように力を加えます。叱る場合は犬の心に働きかけるように、強制する場合は犬を心を持たない物を扱うように使います。
訓練における最も基本的な道具です。どんな物であろうと当人が使いやすい物が一番なのでしょうが、私は手に馴染みやすい革製の物を薦めます。ただし、革製の物は簡単に咬みきる事が出来るので、長く犬を係留しておくには不向きです。首輪はストッパーが付いた引くと締まるタイプがお勧めです。繋がれている犬によく使われている、ズボンのベルトのような首輪の長さを固定するタイプの物は訓練には不向きです。
綱で叩くと綱を嫌いになると良く聞かされます。確かに叩かれるのは犬もイヤです。その為に使われる綱に嫌悪感を持つのはさもありそうな話です。しかし、同じ綱で犬は大好きな散歩に連れて行ってもらえます。どうしましょう?綱に嫌悪感を持てば良いのでしょうか好きになれば良いのでしょうか?犬が反射と反応だけの動物ならこれは大問題です。しかし犬はそれだけの動物ではありません。痛い思いをしたのは綱があるからではなく人の意図だという事、そして更にその意図は何かを伝えようとしたものである事まで犬は理解出来ます(イラスト15)。
内側にトゲの付いた首輪です。小さな力でスパイクの効果を得る事が出来ます。道具は何でもそうですが、使い方です。スパイク首輪もそれを付けるだけで、犬が引っ張らないようになるわけではありません。あくまでも犬に人の要求を伝える道具でしかありません。スパイク首輪は力の無い人が用いるのに適していますし、力の無い人は用いるべきです。スパイク首輪を用いる事によって、力の不足から来るタイミングのずれをカバー出来るからです。自動車でいえばパワーステアリングにあたります。犬に強すぎるショックが加わる事を懸念する必要はありません、心配なら力を加減すれば良いのです。
鎖で出来た首輪、スパイク首輪ほどではないですが、普通の首輪より小さな力で大きな効果を得る事が出来ます。良くチェーンカラーをすると毛が切れるという事を聞きますが、訓練で使う限りはそういう事はありません。
十メートル前後の紐の事です。六ミリから八ミリの径の物が使いやすいようです。紐を買って来てナス管を取り付ければ簡単に自作出来ます。ヤードは呼んでも来ない犬の矯正に良く用いられます。来る見込みが無いのに繰り返し犬を呼びます、それは人から犬に対しての働きかけのはずですが、犬はその人の呼びかけを通りがかりの車のクラクション程にも受け取っていません。このような場合はヤードを付けて、それが付いていないと手も足も出ないという状況をひっくり返します。人の呼びかけが単なる音楽ではないという事を犬に知らせるのです。逆に、ものも言わずにヤードを使う事も良くありません。ヤードに依存するとヤードが付いてないと言う事を聞かなくなってしまいます。
ヤードをつけたとたん名犬になり、隙を見せない犬もいます。この場合も知らず知らずの内に人はヤードに依存しています。ヤードが犬を束縛する結果になっています。決してヤードの有無を見破る犬が賢い訳ではありません。また、引き綱ですが付けただけで要求もしないのに犬が引っ張らないで歩く、これも正常な形ではありません。要求してない時犬は引っ張るのが本当です、それが犬の自由で自然な姿です。
ごく普通の愛犬家の中にも、私たちと同じように事もなげに犬を取り扱う人がいます。そうかと思うと犬の取り扱いを非常に難しいものにしている人もいます。何故そうなるのか良く分かりませんが、その一因として犬のとらえ方、犬に対する考え方があると思います。例えば、良く餌を見せてスワレを教えます。餌があればやるのに餌が無いとやりません。これを犬が座る座らないは報酬のあるなしだとか、あるいは犬はやる事が分かっているのだけどやる気の問題だとか、あるいは服従心に欠けるからとか、あるいはそれは飼い主がなめられているからだとかいわれます。また、仮に犬がやっても、それは叱られるのがイヤだからしたとも良くいわれます。私はそういう受け取り方はしません。これが人なら別です。人ならやる事が分かっていても報酬を考えてしなかったり、その時の気分でずるしたり、あるいは命令した人への忠誠心から行ったり、その他諸々を考慮します。しかし犬の場合私はこういう考慮を全くしません。犬に何を要求されているかの認識がまだ出来ていないと考えます。人の要求しているのは、餌がある時には座って餌が無い時には座らなくても良いという事ではなかったはずです。[U人1] それが伝わってないと考えます。
このテキストでは簡単な訓練、脚側行進と停座、伏座それに休止と招呼を犬に教える方法を紹介しました。犬は一通りは「アトエ」「スワレ」「フセ」の要求に答えるはずです。しかし、犬の頭の中に完全に明確に要求されている事への認識が出来ているわけではありません。ただおぼろげに分かっているに過ぎません。それを人のような完全に明確な認識にする事は出来ないと思います。しかしそれに近い形にまで認識を強化していく事は出来ます、訓練を続けるのです。「タッテ」を教えてみて下さい。脚側行進の途中で停止すると同時に「タッテ」と合図し立つ事を要求します。また、停座待機で犬から離れて向き合ったら「フセ」や「タッテ」を要求してみて下さい。あるいは伏座待機から「スワレ」や「タッテ」を要求するのです。様々なバリエーションで訓練を重ねる事です。
家庭犬の訓練ではどの犬も二ヶ月で私の言う事を聞くようになります。私の要求には答えてくれます。しかし、家庭犬の訓練の目的は私の言う事を聞く事では無く、飼い主の言う事を聞く事です。従って今度は飼い主に訓練の練習をしてもらいます、その期間は一ヶ月から二ヶ月です。飼い主の言う事も私同様聞くようになり、それで卒業です。その時私に聞く人がいます、家へ帰っても大丈夫でしょうか、ちゃんと言う事を聞いてくれるでしょうか?残念ながら大丈夫ではありません。大丈夫かどうか飼い主自らが手応えとして分からなかったら大丈夫ではないのです。働きかけたら犬は答えてくれる、これが手応えとして感じられなければならないのです。これが心のきずな、信頼です。答えてくれてる以上犬にはその用意が出来ています。しかし、大丈夫かどうかをたずねる人の方にはまだ出来てないようですね。
訓練で犬は変わります。繰り返されるやりとりを通して人の要求を知り、答えてくれるようになります。しかし訓練でそれ以上に大切な事は、相手が答えてくれるという確信です。相手に自分の気持ちが伝わっている実感です。これらは生活の中でも、犬とのやりとりを通して得る事が出来るかもしれません。しかし、それははなはだ気まぐれで成りゆき任せです。訓練では課題を作り人工的に状況をコントロールする事でより確実に、そして様々なバリエーションでゲームのように楽しみながらより早く、それらを得る事が出来ます。
私は訓練に汎用性を求めてきました。誰にでも出来うる、どんな犬にも通用する訓練です。職人的な感や熟練した技術を必要としないで、ある程度練習しさえすれば(そう車の運転ほどの練習で)誰でもが出来る訓練です。そして、例えばボールに興味を示すとか、餌に特別いやしいとか、どの犬もが必ずしも持っているとは限らない資質ではなく、どの犬でも持ち合わせている資質を前提とした訓練です。それは例えば人への信頼です。
元々私の訓練は犬を動かす事でした。犬自身の認識など全く考慮しませんでした。いかに迅速にいかに喜んで作業させるかが常に私の課題でした。それには極めて微妙な呼吸、タイミング、間、犬の集中力を引き出す絶妙な人の動きが要求されるのですが、ほとんど生まれた時から犬(それも訓練犬)と一緒に育った私には、ごく自然に身についていたようです。そんな私に転機が訪れたのは犬と離れていたからです。しばらくぶりに動かす犬は微妙に違っていました。思うように犬が動かないのです。感覚だけに頼ってきた私の訓練が壁にぶつかったのです。この壁を越えるには、昔の感覚を呼び戻すか、あるいはもう一度一からやり直して感覚に頼らない訓練を目指すかです。幸か不幸か、感覚は戻りませんでした。それ以来私は感覚に頼らない訓練、系統化された技術、人に伝える事が出来るものを目指してきました。それは恐らく今、ほぼ達成できたと考えています。今のアシスタントはこの仕事に就いてまだ十ヶ月、犬に対する特別鋭い神経や感覚も持ち合わせていませんし、力も私よりかなり劣ります。しかし今、十頭以上の犬をこのテキストに紹介した方法で訓練し、そのどれもが私が訓練するのと同様に喜んで問題無く服従しています。
さて、以上で家庭犬の訓練・取り扱い方や接し方についての私の解説は終わります。目の当たりに私の訓練を見たアシスタントと違って、わかりやすくと願う程ふくれ上がってしまったこの膨大な文字の塊が、果たして貴方に私の意図するものを伝える事は出来たのでしょうか?
平成七年三月四日脱稿 転載厳禁 柳生 昌男
[U人1]餌が無くてもスワレは座る事を要求しているのを犬に伝えるには餌を使わない方が良い
脚側行進は出来るようになったでしょうか?脚側行進が出来るようになれば停座:スワレを教えます。犬から答えを引き出すには四つの方法があります、偶然、誘導、強制、叱責です。訓練ではこの四つの方法を使い分けて犬に人の要求を明確にしていきます。締まる首輪を犬に付け、その首輪に綱を付けて綱を上に引きあげます。この時綱が顎の下から出るようにして下さい、逆:頭の後ろから出ると犬は首が絞まってしまいます。犬の顔が上を向くはずです。顔が地面を向いているときは、両手を顎の下に添えて綱とともに引き上げて下さい。犬が飛びついたり、立ち上がる時は一旦更に上に引き上げてから少し綱をゆるめます、座ったでしょうか?これが停座です(イラスト7)。綱を弛めても座っているようなら褒めます。動くようならすかさず綱を上に引き上げます。この時の綱の方向、力加減を良く覚えて下さい。脚側で犬を停座させようとすると、綱は貴方の胸に向かって引き上げる事になるはずです(イラスト8)。
脚側行進をしながら合図を送ります、「スワレ」とはっきり言います。合図と同時に止まらないで下さい。また、合図を送る前にも止まらないで下さい。犬への要求は先ず合図(命令)で始まります。この際、合図と同時に素早く犬が答える必要も、答えさせる必要もありません。答える速さは犬の認識が出来てくればおのずとはやくなります。また、合図以外に次に起こる事を犬に予測させるような行動は控えて下さい。犬への要求は合図だけで伝えるようにします。同じ合図はいかなる場合も同じ答えを犬に求めます。それは人や犬の都合で変わるものではありません、散歩中でも部屋の中でも、晴れていても雨が降っていても、ヨソの犬がいても猫が鳴いても、あるいは貴方が寝ていても走っていても、同じ合図は同じ答えを犬に要求します。「スワレ」はっきりと合図したら次に綱を上に引き上げ止まります(くどいようですが、あわてて綱を使う必要はありません、ゆっくりと引き上げて下さい。)。前記の要領でここで確実に座らせます(イラスト9)。
慣れてくると犬は、綱を引き上げ始めると次に行われる事を予感して止まります。ここで歩き続ける人との間に距離が出来るはずです。この距離に慣れさせる為少し(十秒程度)間をおきます。綱を弛めて下さい。動き出すようならすかさず綱を上に引き上げ確実に座らせます。ひんぱんに動くようなら弛めないで綱を引き上げたままにして、綱が張られた状態を保ちます。脚側の位置に正確に犬が来るように犬の元に戻って下さい。脚側停座を褒めるように、安心させるように犬を褒め脚側行進を再開します。脚側行進では犬に常に人の左足のそばにいる事を要求しました、人の要求がスワレに変わった後でもそれを知らない犬は当然以前の要求を満たそうとします、そしてそれを拒まれます。今まで良いとされた行為が突然否定されるわけですから犬は不安でいます、それを解消するのです。「スワレ」の合図から繰り返します。犬との距離を広げます。犬が動くようならすかさず距離を縮め、綱を引き上げ確実に座らせます。
これは一つのゲームです。停座をさせて離れた時、犬が動くと人は綱を引き上げて確実に犬を座らせます。この動作は犬が動いた事へのペナルティーとして人に与えられた特典です。犬に隙を見せて下さい、動くようならすかさず特典をいかして下さい。犬の出来に従ってわざと隙を見せ罠を仕掛けます。引き綱一杯に離れても動かなくなったら犬の後ろを回って元に戻ります、この時も動き始めたらすかさず綱を使い確実に犬を座らせます。ここまでは綱を手から放してはいけません、いつでも使えるようにしています。引き綱一杯離れて後ろを回って戻っても動かなくなったら、犬の元に戻る途中で綱から手を放します。犬が動くようなら犬の首に近い部分の綱を掴んで引き上げます。短く綱を使う事です。引き綱一杯まで犬から離れたり、犬の後ろを回って戻ったり、手から綱を放したり、これらはすべて人が仕掛けたフェイントです。このフェイントに犬が引っかからなくなると伴に、犬の心の中では要求されている事への認識が確実に強化されています、そして更に。
犬が動かなければ綱から手を放すポイントをだんだん早くしていきます。犬が座ったらすぐ綱を放しても構いません、そうなったら今度は犬から離れる距離を伸ばします。もう綱を持っていなくて良いのですから、好きなだけ犬から離れる事が出来ます。但し今度は、犬が動くようなら叱ります。犬の元に行き綱を両手で短く、それも出来るだけ犬に近い部分を持って、貴方の胸の方向に向かって犬にショックが加わるように強く素早く引くのです「コラッ!」「イケナイ!」(イラスト10)。例えばフセで犬が勝手に立ち上がったのを叱る場合もこれと同じ方法を用います。訓練は犬の認識の強さによって進みます、今までは叱るより強制する方が効果的でした。綱を引き上げ確実に座らせる事、この操作は強制です。しかし、ある程度要求されている事への認識が出来てきたら叱った方が効果的です。叱る事によって認識を強化するのです。この場合、動いた犬を叱るのは、待っていなかったからでは無く要求された動作・停座をしていないから叱っています。犬に要求したのは待つ事ではなくスワレです。叱ったら、はじめに座らせていた場所に強制的に戻して、強制的に座らして下さい。例えば犬が動いても、人が振り向いたとき座っていれば良いのか、というとそうではありません。位置がずれているという事は、要求された動作をしていなかったはずです、叱って元の場所でやり直しです。叱った場合は、再び犬が動いて叱る事ばかりが続かないように、それ以降は綱を持ちます。[U人1]
スワレをさせて離れます。犬の元に戻って褒めてやります。座って待つ訓練です。戻って褒めようとした時犬は、思いきり走って遊びに行きました。決して叱りません。心の中はともかく顔はにこにこ笑って見送ります。もう一度やります、逃げたらダメよなんて絶対いいません。ニコニコ笑ってアマーイ顔をして、そ、まるで無防備という態度で離れます。今度は引き綱の替わりにヤードといって、十メートルほどの紐を付けました。さあ、どんどん遊びにいって頂戴(^_^)
訓練ではこのようにわざわざ失敗を設定します、失敗しないようには配慮しません。失敗はまたと無い訓練のチャンスだからです。また、手も足も出ない状況で無駄な叱りはしません。犬に何かを教えるのは、圧倒的に人に有利な状況を作ってからです。これから叱られる事を犬に知らせる必要もありません。
呼んでも来ない犬の矯正にもヤードが使われますし、使うべきです。が、ヤードを使えば、犬が呼んだら来るようになる訳ではありません、使い方があるようです。使い方を間違えるとヤードが付いてれば来るが、付いていないと来ないというようになってしまいます。ヤードは付いてなかったら手も足も出ない遠くの犬に対して、確実に気持ちを伝える為に用います。「コイ!」反応がなければ、思いきりヤードを引きます。来るまで何回でも使い、来たら受けとめてやります。来たら受けとめますが、迎えに行ったり捕まえたりはしません。犬が自分から(自分の力で)来るまで、ヤードを使います。それが犬の答えです、犬の答えを引き出す事とそれをうまく受けとめる事です。違いはここにあるようです。
いかなる場合も同じ合図は同じ答えを犬に求めます。それは人や犬の都合で変わるものではありません、散歩中でも部屋の中でも、晴れていても雨が降っていても、ヨソの犬がいても猫が鳴いても、あるいは貴方が寝ていても走っていても、同じ合図は同じ答えを犬に要求します。
一つの動作に対しては一回だけ合図を与えます。停座に対しては「スワレ」一回だけです。あたかも念を押すように、既に座っている犬に対して何回も合図を繰り返す人がたまにいます。「スワレ」「スワレ」「スワレ」。意識付けしようとしているようですが必ずしも犬が、そう都合良く人の思惑どおりになるとは限りません。ひょっとしたら犬は「スワレ」ではなく、「スワレ」「スワレ」「スワレ」と続けて三回唱えることが停座の合図だと理解するかも知れません。あるいは「スワレ」で座ったのに人はまだ別に何かしてほしいのかな、と考え始めるかも知れません。犬に人の要求を伝えるのは一回の合図で十分です。
脚側行進の時に「スワレ」・停座を要求しました。犬は座りましたが、その時位置が脚側からずれました。これは修正する必要ありませんし、修正すべきではありません。「スワレ」の合図はあくまでも座ることだけを犬に要求しています、脚側について座ることではありません。例えば、人から離れた所にいる犬に対して「スワレ」の合図は、その場での停座を意味し、脚側までやってきての停座を要求していないのと同じです。
停座待機が出来るようになったら伏座「フセ」を教えます。停座待機の場合の合図は「スワレ」です、「マテ」は要りません。座っている事を要求するだけで、付随的に待っているという要求は満たされるはずです。「フセ」も「フセ」だけでその位置での待機を含みます。脚側行進をしながら「フセ」と合図をします、もちろん犬は素知らぬ顔で歩き続けるはずです。両手で綱を持って力ずくで無理矢理、真下に引き下げます(イラスト11)。この場合も合図と同時に電光石火のごとく犬を伏せさせる必要はありません。台風が吹けば桶屋が儲かるのごとく、「フセ」の合図と伏せる事の因果関係がやがて犬に分かれば良いのです。どんな形でも構いません、寝転がっても構わないですから0.1秒でも犬の胸が地面に付くようにして下さい。「ヨシッ!」で解放します。それを繰り返すうちにこの0.1秒を伸ばしていきます。やはり「ヨシッ!」でダイレクトに大きく答えます。綱を弛めても伏せているようなら犬から離れます。離れたとたん立ち上がるようなら犬を叱ります。叱り方は停座の時と一緒です。綱を両手で短く持って貴方の胸の方に強く引いて下さい。良くある過ちですが、叱る事と伏せる事が一緒にならないようにして下さい。叱っている時は犬はまだ伏せてないはずです。叱ったらフセをさせ軽く優しく頭を撫でます。これは安心させる為です。停座の場合と違って早々に叱るという方法を用い始めました。これは停座を教えた事によってある程度フセの下地が出来ているからです。犬から離れる事が出来るようになったら、強制を誘導に変えます。無理矢理下に引いていた綱を軽く引き下げるだけにします。誘導で伏せなかったり中途半端な姿勢の時は叱ります。犬の元に戻ったら「アトエ」と合図して脚側停座をさせてから褒めて下さい。それまでに立ち上がったら叱って伏せさせます。
どうしても頑として伏せをしない、あるいはイヤがって咬んで来るような場合はダブルロープを用います。首輪を付け引き綱を付けてしっかり犬を係留し、その上で更に別の首輪と綱を犬にとりつけます。別に付けた綱を係留してある綱と反対の方に引きます(イラスト12)。犬は係留してある綱と引っ張られた綱によって極端に自由を拘束された状態になります。ワガママな犬ほどもがきます。どんなにもがいても無駄な事を犬に確認させて下さい。そのまま引き続けていると犬は息が出来ないので弛めます。犬が落ちついたら「フセ」です。強制するなり手取り足取りするなりして伏せさせて下さい。横に引き倒しても構いません。伏せた状態で良くなだめるように褒めて下さい。犬が立ち上がるのは構いません。どんな体勢でも気持ちを十分にほぐすことが大切です。「フセ」から繰り返します。拒否したり抵抗する場合は綱を引くところからやり直しです。犬が次を予感して「フセ」の合図の前に伏せたり、伏せ続けている場合は一旦犬を動かして下さい。犬は係留してある綱を半径とする円の範囲内で自由に動けるはずですから、その円の中に収まるように綱を引いたり、綱を持ったまま動いたりします。犬が自由を確認したら「フセ」です。これはやりとりを取り戻す為です。大切なのは伏せる事ではなく人に答える事です。そうで無いと、伏せを要求する度にダブルロープをしなければならなくなります。
ダブルロープは非常に強力な強制力を持っています。良く人は、叩いて力尽くで犬をねじ伏せようとしますが、犬は興奮しますし、肉体的にもダメージを残します。ダブルロープは犬に肉体的苦痛をあまり与えません。また、肉体的ダメージもあまり残しません。しかし犬によっては非常に大きな精神的ショックを与えます。それは警戒しなくてはいけません。その精神的ショックは肉体的にも負担を与えます。人がそれに気づかずに用い続けるなら、ひどいダメージを残したり、極端な場合取り返しのつかない事態が招く恐れもあります。
ダブルロープがその威力を発揮するのは咬み癖のある犬に対してです。犬の攻撃の圏外から犬を制御できます。特に、人に体を委ねることに抵抗を持つ犬には良く用います。ダブルロープの理想的なフィニッシュは、犬が人の手の中で安心して撫でられている状態です。体を触られるのを嫌がり
発生するかも知れません。犬に与えます。
停座が出来ている犬は、伏せを始めても比較的短い時間で犬と距離がとれるようになると思います。十歩ほど犬から離れても、戻るまで伏せたままでいられるようなら休止を開始出来ます。休止は、人が帰るまで指示された場所で犬だけで待つという訓練です。人が帰って来るのが何分後か何時間後かは分かりません。とにかく帰って来るまで犬はその場で待っていなければなりません。「フセ」で犬から離れます。数歩離れたら犬と向き合って立っています。すぐには戻りません。距離を離れる必要はありませんが、ある程度の時間(十から二十秒ほど)は待たせて下さい。犬の元に戻り「アトエ」の合図で脚側停座をさせて褒めます。途中で動くようなら叱ります。叱った後には再度犬から離れますが、離れる距離も離れている時間も短くします。犬が動いたら叱らなければなりませんが、叱る事ばかりが続かないように状況をコントロールして下さい。確実に待つ事が出来るようなら、離れる距離を十歩程度に伸ばします。更に建物の角などを利用して、犬から姿が見えないように隠れます。但し、人は犬から目を放さないで下さい。犬が動けばすぐ犬の元に行って叱り、姿は見えなくても建物の影に人がいる事を知らせます(イラスト13)。
休止は難しい訓練ではありません。犬には非常に理解しやすい作業の一つです。しかし、時としてこの訓練を大変難しいものにしている人もいます。叱る事は、犬への一つのペナルティーです、犬にとって苦痛でなければなりません。犬がもっと叱られていたいと思ったり、もう一度叱られたいと考えてしまうなら、それはペナルティーにはなっていません。犬は休止の途中で立ち上がってみます。するとすぐご主人様が大急ぎで駆けつけて来てくれます。どうやらご主人様に会いたくなったら立ち上がれば良いようです。犬がこう考えるようになったら休止の訓練は難しいものになってしまいます。
休止で人は、犬の比較的近くに姿を隠しています。この状態で三分程度確実に休止が出来るようになったら、罠を仕掛け要求されている事への認識を更に強化します。例えば、大好きなボールを転がしたり、おいしそうな臭いをさせたり、知らない人に呼んでもらったりするのです。罠にはまれば叱りますが、罠を仕掛ける目的は叱る事ではありません。罠を罠として犬に理解させる事です、その為には犬が罠にはまってばかりいる事が無いように、たまには易しく罠をセットする事です。
さあ、犬は貴方と離れて一人でいられるようになったでしょうか?何があっても、指示された場所でじっとしていなくてはならない事を犬が覚えたら、今度は人の都合の如何ではじっとしていてはならない事を教えます。脚側行進で「常に人と一緒にいろ」と要求し、停座や伏座では「離れていろ」と要求し、今度は「離れているな」と要求するのですから人は全く勝手です。引き綱の替わりにヤードを付けて脚側行進します。一定方向に歩くとヤードは伸び切るはずです、回れ右をして犬を停座させヤードの反対の端まで離れて犬と向き合って下さい。右手をまっすぐ上に上げると同時に「コイ」と言います。今まで合図は言葉だけでした、それを声符と言います。今回手による合図を用いましたがこれは視符です(イラスト14)。犬は動かないはずです。静かにヤードを取り、それを持ったままこれも静かに後ろに下がります。目立つような動きをしないで下さい。イヤでも犬は動く事になるはずです。動いてはいけないはずなのに何故動かすのか?犬は怪訝そうにしていると思います。構わず下がり続け途中からしゃがんで呼び寄せて下さい。犬には不安があります。要求されていると思っていたのと違う事をしろというのですから当然です。その不安を十分解消します。抱きかかえてヨシヨシ。繰り返します。不安が解消されたら勢い良く走って来るようになります。そして更に繰り返すと、合図の前に来ようとするはずです。犬は座ってなくても良いのだと考え始めるのです。「コイ」の合図があるまでは来てはいけないことと、はじめに要求されていた事をはっきりさせてやって下さい、座っている事です。叱って待たせた場所に戻して「スワレ」です。
「アトエ」「スワレ」「フセ」「コイ」基本的な犬の訓練は、すべて紹介しました。これらはこれまで解説した方法を用いて、練習次第で出来るようになるでしょう。しかし私は、非常に重要な犬の動きに関する訓練について、一つ省いて解説を進めてきました。しかも私は、その訓練をほとんど一番先に行っているのです。「アトエ」の合図は脚側の位置を要求します。犬がその位置にい続けるようには今まで紹介した訓練で出来ます。しかし、任意の位置から脚側の位置への犬の動きを作るには、今までの解説では不足かも知れません。
さあ、訓練を始めます。犬は貴方の前を歩いているかも知れないし、向き合っているかも知れません、あるいは貴方にじゃれているかも知れませんし、綱を引っ張っているかも知れません。もしヨソに行きたそうにしているなら構わず行かしてやって下さい。犬を自由にすることから訓練は始まります。もちろんスパイクして、ヨソに行ってはいけないと学習させます。ここで「アトエ」で脚側を要求します。強制して下さい。十分に力を入れる事が出来るように両手で綱を持ちます。出来るだけ首に近いところ、顎の下あたりの綱を持ちます。十分に足を踏ん張って一緒に下がりながら、犬の体を自分より後ろまで引き下げます。左、脚側のがわに引き下げて下さい。丁度脚側ではなく少し余計目に引き下げるのがコツです。強制の常で犬を物のように扱うことです。ほとんどの犬は抵抗して踏ん張るはずですが構わずやって下さい。自分より後ろに行ったら優しく呼んで下さい。脚側の位置を示して、ここだよココ。脚側の位置で安心させるように十分にほぐします。強制が効いて来て、犬が自分で動こうとし出したら一緒に下がるだけにして、強制から誘導に切り換えます。
さて、ここまで来ると脚側行進もかなり落ちついてきたと思います。一つの形では確実に制御出来ているでしょう、そう、綱をつけて歩く分にはです。更に進めます、軽く走って下さい。犬は興奮します。じゃれついたり、前に出ようとしたり。急に止まって下さい。犬が要求されていることを忘れて、自分だけ走り続けるようならスパイクです。そうでなければ、あわてて脚側に戻って来ようとするはずです、この動きは助けます。その動きが途切れないようにスムースに脚側に誘導し褒めて、脚側につこうとする犬の気持ちに答えます。もし犬が行きすぎないで人と一緒に止まれたら理想的です。人が走り出したとき、犬は興奮し人と一緒かあるいは人の少し前に位置するのが本当です。犬が走るのを喜ばなかったり遅れるのは、訓練が犬を拘束しているか、あるいは犬に何らかの障害が起きているのかも知れません。
今までは安心させる答え方でした、犬を受けとめていました。より積極的に犬に答えを返します。満々と水を湛えた堰を切るように、気持ちを解放します。犬の喜びをピークに持っていきます。例えば、仕事から帰ってきた貴方を迎える犬の喜びを想定して下さい。あるいは食事をもらえる喜びかも知れませんし、散歩に行く時のはちきれんばかりの喜びでも良いです。その喜びを犬に求めるのです。貴方がじっとしていては難しいでしょう。大抵はオーバーに表現しながら、犬から離れるように下がることでそれが得られると思います。犬の喜びがピークに達したところで「アトエ」の合図をして下さい。犬が喜びのあまり要求が理解できないようなら強制して下さい。少しでも答えがあるなら、誘導して助けます。興奮から冷静へ、動から静へ、急激な転換、切り換えが大切です。喜ぶときには喜んで、しかし命令には確実に答える事です。いかなる場合でも、命令して良いし、犬は当然のごとくそれには答えなければなりません。
喜びのピークを作り、そのピークの瞬間に命令して答えを得る、即ちピークを制することには、大きな意味が三つはあります。先ず、興奮状態での犬のコントロールを得る事です。このピークの時の興奮状態までは、ヨソの犬に対しても、猫を見て興奮してもコントロールできるという事です。もう一つは動きを作る事です。ピークの瞬間に次の命令を出す事は、エネルギーに満ちた状態で次の動作を要求しています。そのエネルギーのすべてが次の動作に流れます。犬は、見せたこともないほど喜んで次の動作をします。若干の誘導は問題になりません、高い興奮状態を保つ事が優先します、というよりいかにそのピークの状態を保ったまま要求する動作を引き出せるかです。これが、いわゆる犬を動かす技術です。
最後にやはり手応えです。犬を走らせる、犬を興奮させる、そしてその状態での制御は確実に人に手応え、犬は答えてくれるという実感を作ります。ここまで来れば、つけている引き綱はほとんどその意味を失います。ピークを制する事で、今までの、より冷静にと抑える方向ばかりの犬の取り扱いが反対になります。より興奮させるのです、より強い答えが得られます。
[U人1]褒め方は今までは不安を解消する為に安心させる事が中心でした、犬を受けとめていました。それをより積極的に犬に答えを返す褒め方にします。犬の元に戻ったら、満々と水を湛えた堰を切るように、気持ちを解放して下さい。犬が動きだすほど強く大きく「良くやった!」と表現します。